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社会福祉法人の内部留保を『活用』させても何も改善しないですよね? (岡崎よしひろ 中小企業診断士)

少し前に言われていた「一般企業は多額の内部留保をため込んでいるのだから、それを活用して働いている人の待遇改善や新規雇用に使うべき」とのお話が、今度は社会福祉法人に対して言われています。

少し前の記事ですが、朝日新聞は

財務相の諮問機関「財政制度等審議会」は30日にまとめた報告書で、特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人(社福)が収益を巨額の「内部留保」としてため込んでいると指摘した。低賃金とされる介護職員の待遇改善に安易に税金を投入せず、まずは内部留保を人件費としてはき出すよう求めたものだ。
社福の内部留保2兆円 「待遇改善の財源に」 財政審推計 朝日新聞デジタル 2014/05/31

……と報道しています。

なんとなく「その通り、現場で働いている人が大変な思いをしているのにお金を貯めこむなんてけしからん!」などと思ってしまいそうですが、安易に内部留保を吐き出せという考え方は非常に乱暴な考え方ですし、そのような議論になってしまうと、本当に重要なことへの議論がおろそかになってしまい、介護の現場で働いている方の待遇改善に結びつかない危険性があるのです。

■内部留保の大きさと特定の資産は紐づきません
さて、なぜ内部留保の活用という議論が介護の現場で働いている方の待遇改善につながらない危険性があるのでしょうか?それを明らかにするためにまず内部留保とはなんなのかについて考えていきたいと思います。

「内部留保を活用して」といった話が出る場合、おそらく「内部留保が大きい組織は現金を沢山持っているんでしょ?だったらその現金を使って職員の処遇を改善すればいいじゃない。」という風な発想があるように思われます。

しかし、残念ながら内部留保という言葉と現金は紐づかないのです。あくまで内部留保とは、資産をどんなふうに調達してきたかを示すだけの言葉なのです。

それなので、内部留保などほとんどなくて、多額の負債を抱えている組織であっても現金が潤沢な場合もありますし、非常に大きな内部留保を抱えていても、持っている資産の大部分が土地や建物で、現金はほとんど持っていないといったケースもあります。

このように、現金の多寡と内部留保の多寡は関係のない考え方なのです。

■個人の場合で考えてみます
個人の場合、資産とは現金とか預金になると捉えている方も多いとは思います。「私は貯金が100万円持っているから資産は100万円だよ」といった感覚です。しかし、会計的に考えれば個人の自宅や車、高価な時計なども資産になるのです。

そのため、例えばあなたが貯金のほとんどをはたいて高級車を購入したとしても、会計ではあなたの『貯金』という資産が『車』という資産に変わっただけと捉えます。あなたの『内部留保』は車を買っても減っていないのです。

また、仮に多額のローンを組んで高級車を購入しても、あなたの持っている『内部留保』は減りません。この場合は、借金で調達してきた『お金』が『車』に変わっただけですから、あなたがもともと持っている『内部留保』には影響を与えないのです。

このように、現金が何に投資されているかは内部留保のお話とは基本的には関係ないのですね。もっとも、車の価値は年月を経ると減少しますから、しばらくすればあなたの『内部留保』は減って行くという事はあります。(こういった考え方を減価償却と言います。)

■内部留保は設備を整えても減りません
さて、介護の仕事ををするためには大きな土地や建物が必要になると思います。特に特別養護老人ホームなどを運営している場合、大きな土地に大きな施設を構えて多数の人が働くといったイメージになりますよね。

では、設備を整えるためにお金を支出していたらどうでしょうか?上で指摘した通り、設備への投資と内部留保はあまり関係ありません。

例えば一億円をかけて土地を取得しその上に建物を自己資金で建てたとします。この場合、建物が建った段階では一億円の現金がなくなって、総額一億円の土地と建物になるだけです。

もちろん、建物の一億円は数十年かけて償却されて費用化されます。この意味で長い目で見れば内部留保の額は影響を受けます。しかし、土地は減価償却されません。そのため、短期的には一億もの投資をしたとしても内部留保の金額にはあまり影響を与えないのです。

■社会福祉法人の内部留保は誰にも還元されません
さて、「多額の内部留保を抱えているからには組織の運営側が儲けているに違いない」といった考え方もあるかもしれません。もしそうであるならば、「内部留保を働いている人の待遇改善につなげよう!」という発想にも納得できます。

しかし、内部留保を誰かに還元するといった仕組みを社会福祉法人は持っていません。株式会社であれば、ちゃんとした手続きに則れば、配当といった形で株主が山分けすることができますが社会福祉法人は配当という形で資金を流出させることができないのです。

そのためどれだけ内部留保があったとしても、組織の運営側が誰かが不当な利益を得ているというわけではないのです。

むしろ運営側が不当な利益を得ているような団体では、役員報酬などが過大に計上されたり、不透明な費用が支出されたりして、逆に内部留保が少なくなるはずです。

(不正とかの可能性は別の問題なので本エントリーでは触れません。)

■問題は内部留保ではない
このように、社会福祉法人は内部留保が多くてけしからんといった議論にはほとんど意味が無いように思われます。資産面に対して「多額の現金を持っていてけしからん」とか「株や債権に必要以上に投資していて本業がおろそかになっている」という内容なら、是非はともかくとして還元の原資にはなりえるでしょうが、資産面を考慮に入れずに内部留保に文句を言っても仕方がないと思います。

個人的にはもちろん、社会福祉法人で働いている方の報酬を増やすという事は必要だと思います。責任の重い大変なお仕事をされているわけですから、それに見合う報酬は獲得してしかるべきだと思います。

しかし、その報酬増の出所を内部留保に求めるのでは意義のある議論が難しいと考えられます。というのは、内部留保とは、上で見てきたように、現金の裏付けがあるかどうか分からないものです。また、永続的な待遇改善の原資として考えるならば、負債の額とのバランスや収支についてもみないといけないと思うのです。

仮に「3億円の内部留保があるけど、ウチは負債が100億円あるから…」とか「確かに内部留保は3億円あるけど、介護報酬の制度が変わったため、毎年1億円赤字になるんだよね…」といった状況では3億の内部留保があってもとても職員に還元できる状況では無いですよね。

このように内部留保についてだけ見ても職員に還元できるだけの余力はよく分かりませんよね。そして、そのような『よく分からないもの』を対象に議論しても、あまり生産性のある議論ができるとは思えません。

そのため、内部留保を活用してとか、多額の内部留保を持っていることを問題視するといった議論に対して、「そこじゃないんじゃないのかな?」と素朴な違和感を持っているのです。

中小企業診断士 岡崎よしひろ

中小企業診断士 岡崎よしひろ

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