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内部留保を活用しろなんてご冗談を。賃上げを目指すなら内部留保なんて考えずに利益の獲得に焦点を当てるべきです

企業が蓄えたもうけが過去最高の水準になっていると報道されています。そして、政府がその内部留保を活用して賃上げや投資に活用することを求めていくとのことです。

企業が蓄えたもうけを示す「内部留保」が増え続けている。財務省の法人企業統計によると、2015年度は377兆8689億円と前年度から約23兆円増加し、4年連続で過去最高を更新した。アベノミクス効果をアピールしたい政府は、来年の春闘もにらんで賃上げなどに回すよう迫っているが、企業側は慎重だ。
377兆円 2015年度の企業の内部留保 賃上げ・投資、迫る政府 毎日新聞2016/11/6

内部留保とは企業が税金を支払った後の利益から、配当に回さずに企業内部に蓄えているもうけのことで、企業の財政状態を示す貸借対照表上に利益剰余金などと記されるものです。

この内部留保を活用せよといった話題は定期的にニュースになりますが、こういった内部留保の活用といった議論は完全に的外れであり、筆者はむしろ内部留保に注目していることが賃上げや投資の増加といった真の目的達成を困難にしていると考えています。

■内部留保は賃上げには活用できない
繰り返される「内部留保を活用して○○を」といった議論で、目的として挙げられているのが賃上げであり、投資の増加です。

しかし、この目的を達成するために必要なのは、長年の企業活用で蓄えたストックである内部留保ではありません。

そもそも、企業が税金を支払った後の利益は配当として株主に還元するか、企業内部に留保し、再投資を行い、更なる利益獲得に努める以外の使い道はありません。

そして、内部留保はその会社の株主に帰属する利益です。株主としては経営者に企業の経営を委託しているのですから、勝手に内部留保を減らすような意思決定を行うような経営者に企業の経営を任せるようなことはあり得ないのです。

そして、内部留保を減らすような意思決定は内部留保の定義上、損失を招く意思決定に他ならないので、内部留保を活用し内部留保を減らすような賃上げを行うといった事は全く許容されないのです。

しいて内部留保の活用を議論するのならば、「企業は適切な投資を行う必要がある」ぐらいしか言えませんし、適切な投資案件であれば外部に言われるまでもなく、企業経営者は投資の検討を行うはずです。

但し、仮に適切な投資を行った場合、その投資は企業の利益獲得に寄与しますので内部留保はますます増加します。

このため、「内部留保という名前の活用すべきお金」が企業内にあると認識しているのであれば、どこまで行っても議論は平行線になってしまうのです。

■賃上げや投資の増加を望むなら利益率の向上が必要
あくまで目的が賃上げであり投資の増加であるのならば、内部留保の活用ではなく利益率の向上を考えるべきでしょう。

政府は「アベノミクスによる円安効果や法人税減税で企業はもうけを増やしたのに賃上げや投資に回していない」とみている。
377兆円 2015年度の企業の内部留保 賃上げ・投資、迫る政府 毎日新聞2016/11/6

報道では企業はもうけを増やしたのに賃上げにも投資にも回していないとありますが、残念ながら我が国の企業の利益率はそれほど高くはありません。

2012年時点でのROEは我が国は5.3%であり、米国の22.6%、欧州の15.0%である。経済産業省 伊藤レポート「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト「最終報告書」より筆者抜粋

ROEとは自己資本利益率のことであり、企業が投下した株主資本に対してどれだけの利益を獲得したかを示す指標です。上記の通り、我が国企業のROEは米国や欧州と比較して大きく見劣りする水準です。

■もうけのうちどれだけが働いている人にわたっているのか
他方、企業が生み出した付加価値のうち人件費が占める労働分配率の水準についてみていきましょう。少し古い資料ですが

近年の動きをみると、企業規模計では2002年からの景気拡大とともに低下し、2000年代半ばにかけておおむね70%前後で推移してきた。

中略

2010年度は景気回復の動きを反映した付加価値の増加と人件費の減少により、前年度より低下し71.7%となった。平成24年版 厚生労働白書

とあり、労働分配率は70%代で推移しています。これは、逆に言うと、企業が生み出した付加価値のうちおおむね7割程度は人件費として支払われているという事です。

また、付加価値には様々な定義がありますが計算式としてはおおむね以下の通りとなります。

付加価値=営業利益+人件費+動産・不動産賃借料+租税公課

この計算式はざっくりというと、企業が生み出した付加価値とは企業が稼ぎだした利益だけでなく、企業内で働く人の人件費や動産や不動産を借りている費用、租税公課まで含んだものであるという事を示しています。

という事は、利益が増加すれば生み出す付加価値の額も増加します。企業が生み出した付加価値のうち人件費が占める労働分配率の水準に変化がなければ、企業の利益の増加はそのまま賃金の増加につながるのです。

■生み出した付加価値の一定部分が賃金となっている
前述のとおり、企業は一貫して生み出した付加価値のうち一定部分を賃金として支払っているため、利益率が上昇すれば賃上げもおのずと行われると推測されます。

もちろん、一般に好況時には労働分配率は減少傾向となるといわれており、労働分配率については短期的には上下があるでしょう。

しかし、上に示した通り長期的に見て極端に労働分配率が上下することは考えにくいです。そのため、企業の利益率向上および労働分配率の維持こそが賃上げを目指すために必要なことであると考えられます。

そして、企業の利益率向上を目指すといった方向は行政、経営者、企業で働く人、株主など様々な利害関係者にとっても異論はないはずです。

一方、内部留保の活用を叫んでも、そもそも内部留保は賃上げなどに活用するべき種類のものではないといった前提があるため的外れな議論になってしまい、一歩も前には進みません。

つまり、考えるべきはどうやって企業の利益率を向上させることができるかであって、内部留保の活用などではないのです。

中小企業診断士 岡崎よしひろ

こちらは、シェアーズカフェオンラインに寄稿した文章となります。

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