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生産性を上げるにはおもてなしスキルの向上ではなく、サービスを最適化する必要がある

ITやロボットの導入を補助して中小企業を支援するという方向性が検討されているようです。

報道では

政府は来月閣議決定する成長戦略にIT(情報技術)やロボットを活用した中小企業支援策を盛り込む。今年度中に1万社以上を支援する目標を掲げ、生産性向上や新サービスの創出につなげる。サービス業でも、従業員が備えるべきスキルを「おもてなしスキルスタンダード(仮称)」として明確にし、サービスの水準を底上げする。 中小1万社にロボ導入支援 成長戦略  日本経済新聞 2017/5/27

とあり、生産性向上のために身近な職場にロボットがやってくる未来がすぐそこに来ているのかもしれません。

このように国は、生産性、特に労働生産性にターゲットを絞った様々な支援策を実施していますが、この記事には気になる点もあります。

それは、『おもてなしスキルスタンダード』として従業員が備えるべきスキルを明確にして、サービス水準を底上げするという記述です。

直感的には「サービスの水準が底上げされて、良いサービスを提供できるようになればサービス業の生産性は上がる」と感じるかもしれませんが、サービス水準の向上だけでは、基本的に労働生産性の上昇には寄与しないと考えられます。

本稿では、労働生産性の向上を目指すのならサービス水準の向上自体を目的とするのではなく、むしろサービスの最適化を図るべきであるといった点について考えていきたいと思います。

■中小企業の生産性は大企業と比較して低い
議論を進める前に、労働生産性とは何かについてみていきます。

中小企業やより規模の小さな小規模事業者の労働生産性は大企業と比較して低いことが分かっています。このことから労働生産性の良し悪しを左右する要素について考えていきます。

業種別、規模別に労働生産性の水準を確認すると、我が国の労働力のうち約7割を占める中小企業の労働生産性の平均値は、大企業における労働生産性の平均値を下回っている。 中小企業の労働生産性 中小企業白書2016

この生産性の差の大きな要因は設備投資額です。大企業では中小企業比較して潤沢な資金で設備投資を実施していますので、従業員一人当たりが活用できる資源は多くなっています。

その結果同じ人数で働いていても、大企業の方が労働生産性が高くなるということができるのです。

■資本ストック(固定資産額)について掘り下げてみる
直感的に従業員一人当たりが活用できる資源が多ければ労働生産性が高くなるのは理解できますが、労働生産性について、さらに展開してみたいと思います。

労働生産性は以下のように展開することができます。

労働生産性=有形固定資産/従業員数×付加価値額/有形固定資産

この式は、労働生産性は資本装備率(一人当たりの有形固定資産額)と資本生産性(資本一単位当たりの付加価値額)で説明できることを示しています。このことから効果的な設備投資である限り、資本装備率を高めれば労働生産性も向上するという事がいう事ができるのです。

つまり、大企業の方が相対的に投入できる経済的資源の量が多くなるわけですから、中小企業・小規模事業者と比較して労働生産性が高くなるのはある意味当然であるという事ができるのです。

■設備投資以外で労働生産性を高めるためには
ただ、適切な設備投資をすれば労働生産性が高まりますという説明は「そんなことはわかっているんだよ。その適切な設備投資が難しいから困っているんだよ」といった反応を誘発するだけで、実務的にはあまり意味がない議論です。

そこで、もう一度労働生産性の計算式に戻り、労働生産性を高めるために何をする必要があるのかについて考えていきます。

労働生産性=付加価値額/従業員数

こちらの式は、先に述べた労働生産性を資本装備率と資本生産性に分解した式と比較してすっきりしていると思います。

この計算式を基に様々に展開し、いろいろな知見を得る事ができるのですが、労働生産性自体はこの計算式で産出することができるのです。

さて、この式を考えたとき、労働生産性の値を大きくするためにはどうしたらよいでしょうか?

計算式を眺めていると見えてくると思いますが、労働生産性の値を大きくするためには、分子にあたる付加価値額を相対的に増やすか、分母にあたる従業員数を相対的に減らすかのどちらかが必要になります。

このことを基に、サービス水準の底上げが労働生産性向上につながりうるかについて考えていきます。

■サービス水準の底上げが労働生産性向上につながるか?
サービス水準の底上げが付加価値額の増加(粗利額の増加)、もしくは従業員数(労働量)の削減につながれば、労働生産性の向上に寄与しますが、最初に述べた通り、サービス水準の底上げは基本的には労働生産性の向上にはつながらないと考えられます。

それはどうしてでしょうか?その答えは、労働生産性の算出式に隠されているので、労働生産性の算出式である、付加価値額と従業員数に分けてその理由を探っていきます。

まず、サービス水準の底上げは付加価値のアップにつながるかについて考えていきます。

より良いサービスを提供することが、客数の増加、客単価の増加などに結び付けば売上の増加が見込めます。その結果、付加価値額も増加していくと考えられます。この意味で付加価値の増加は見込めそうです。

但し、客数の増加や客単価の増加など売り上げの向上に結び付けばという条件が付くことに注意が必要です。しっかりと売上に結び付くサービス向上が必要であって、サービス向上それ自体が目的となっていて、顧客の心に(むしろ財布に)響かないような場合では、付加価値額の向上に寄与しません。

それではサービス水準の底上げは従業員数にどのような影響を与えるでしょうか?

もし、サービスのプロセスを改善して、同じ成果をより少ない労力で達成できる方向での改善が可能であれば、従業員数の削減につながります。その結果、付加価値額が変わらなくても労働生産性が向上します。

例えば、タッチパネルでオーダーを顧客自ら入れるような居酒屋さんとか、食券を顧客が自ら購入して金銭の受け渡しの手間を削減するといった方向性です。また、フードコートのように配膳をセルフサービスにするといった方法も考えられます。

但し、サービス水準の底上げとか、おもてなしスキルという文脈で語ったときに、サービスを削減するといった発想があるかどうかはかなり疑わしいところです。

例えば、注文を取るときにコミュニケーションを図って、よりよいサービスを提供するといった考え方や、顧客へ対して手厚くより良いサービスを提供するといった発想になると考えるのが自然です。

つまり、サービス水準の底上げは基本的には労働者数の増加をもたらすと考えるのが自然なのです。

このように、労働生産性を考えた時に、サービス水準の底上げという施策は付加価値の増加と従業員数の増加という効果を打ち消しあう方向に働くため、うまくバランスを取って実施する必要があるのです。

また、サービス水準の底上げによって生じる付加価値の増加分と労働者数の増加分のバランスが取れていないと、逆に労働生産性が低下するといった結果につながってしまいます。

(サービス水準の底上げをするという意思決定をした場合、売上の増加は予想できませんが、ほぼ確実に労働者数は増加します。)

■労働生産性の向上が目的でサービス水準の底上げは手段であると意識する必要がある
このように、サービス水準の底上げは労働生産性を引き上げる魔法の杖ではなく、バランスが大切だという事ができます。

確かに、際限なくサービス水準を高めるというのも一つの価値観であり、それで成功している企業もたくさんあります。しかし、それが付加価値の獲得につながらないのならば、それは無責任なコンセプトです。

企業が存続するためにも、従業員にしっかり報いるためにも、その他の利害関係者に対する責任を果たすためにも、しっかりと付加価値を稼ぐ必要があります。

そのため、自社の顧客がどういった水準のサービスを望んでいるかについて冷静に考え、もし顧客が望んでいないサービスが特定できるのならば、思い切ってその分野のサービスを削減するといった発想も必要になってきます。

その意味で、生産性を上げるにはおもてなしスキルの向上ではなく、サービスを最適化する必要があるという事ができるのです。

中小企業診断士 岡崎よしひろ

こちらは、シェアーズカフェオンラインに寄稿した文章となります。

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